埋没するその腕を
それが目に留まったのは、多分、偶然だったのだと思う。
累々の屍に埋もれたそれに、僕は見覚えがあるような気がした。

特徴のある、手の甲の、蜥蜴の刺青。

屍の山の中に、それだけが覗いていた。

見間違いかとも思い、僕は屍を踏み越え、
それに近付いて、目を凝らす。

間違いない。
僕は、これを知っている。
とてもよく、知っている。

僕は、その、見覚えのある刺青を施した手を、掴んだ。
冷たかった。
あたりまえだ。これは屍体の手だ。

先に繋がる、よく知る人の屍を思い描きながら、
力いっぱいその手を引っ張る。

まるで手応えも抵抗も無かった。
勢い余って、僕は屍の上に尻餅をついた。

腕だけを、抱えていた。
肩から先は無かった。
僕は、よく知る人の、腕だけを、見つけた。


屍の山に埋もれた腕。


そのときの僕の気持ちは、安堵だったのか、落胆だったのか、
それとも他のなにかだったのか。
とにかく僕は、よく知る人の腕を抱えて、溜息を吐いた。

消息が判らなくなって、もう随分と経つし、
もはや連絡の付けようも(お互いに)無いから、
気にはかけていた。
けれど、ずっとその人を捜していたかといえば、それは嘘になる。
いつか会える、また会いたいと、
そんな淡い期待はしていたけれど。

捜していたわけではない。


今や特定のだれかを捜すという、そんな行為は無駄に等しいと、
僕は識っている。
皆、識っていることだ。

腕の中の、腕を見つめる。

どうして腕だけなのか。

少なくとも、刃物で斬り落としたわけではないようだ。
それならば、引き千切られたのか、喰い千切られたのか。
あるいは不慮の事故で腕だけを失くしたのか。
……この屍の山に埋もれていたのだから、それは考えにくいけれど。

この、よく知る人の、他の部分はどうなったのだろう。

死屍累々の何処かに埋もれているのか。
ゾンビたちの腹に収まったのか。
何処か別の場所で、隻腕のまま生き延びているのか。
ゾンビになっているのか。

そもそも、この腕を失くしたそのとき、
僕のよく知るその人は、生きていたのか、死んでいたのか、
それともゾンビだったのか。

なにも判らない。判りはしない。
僕が見つけたのは、僕のよく知る人の、腕。
ただそれだけ。


なにかの気配を感じた。
潜んでいたゾンビたちが、また戻ってくるのかもしれない。

こんな場所に長居は無用だ。
たとえ、よく知る人の腕を見つけたとしても。
なにしろ、僕が見つけたのは、腕だけなのだから。


僕は、腕の中の、よく知る人の腕を、放り投げた。


そのよく知る人の消息は、今も判らない。


                 退廃的な100のお題:鳥篭/お題配布場所



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by zbeat | 2006-10-22 22:02 | リビングデッド、もしくはゾンビ
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