殺してあげようか
思い余ってそう尋ねた私に、兄は首を横に振った。
まだ自分は人間だから、と。
人間であるうちに殺されるのは怖いから、と。

ゾンビになるのは、怖くはないのだろうか。
自分が死んで、そうしてしばらくして、
今度はゾンビとなって、
蘇る。

否、蘇らなければならない。

その過程の恐怖に比べれば、
その前に、愛する妹の手で殺される恐怖など、
取るに足らないもののように思うけれど、
それは私がまだ、兄と同じ立場に立ったことがないから、
そう感じるだけなのだろうか。

もっとも、もしも同じ立場に立ったら、
二度めなどないのだが。

今、兄がなにを恐れているのか、
結局のところ、私には解らない。

俺がゾンビになったら、そのときは、好きにすれば良い、と、
兄は言った。
好きにしろといわれても、ゾンビになった兄を殺す自信は、
正直に言って、あまりない。
兄が人間であるうちに、私と意志の疎通ができるうちに、
覚悟を決めて、そのときを迎える前に殺してしまうほうが、
私には何倍も楽だ。
ゾンビになった兄の姿は、見たくない。
……なんて身勝手で、残酷な妹なのだろう。

だからせめて、兄が死んだら、ゾンビになる前に、
殺してあげようか。

差し伸べられた兄の手を、そっと握り返しながら、
私はひっそりと、そう思った。


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by zbeat | 2006-06-21 22:40 | リビングデッド、もしくはゾンビ
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