貴方はわたしを突き落とす
びゅう、と、谷底から吹き上げる風に、女は身震いした。
遥か下方、深い深い谷底は、
流れる水も涸れ果てて、岩と小石に覆われた、
殺風景な川床も露だ。
そこに点々と見える人影は、
真実人間なのか、それとも生ける屍なのか。
(おそらくは後者なのだろう。)

女は、隣りに寄り添う男の顔を見上げる。
眉を顰め、谷底を見つめる男の、その表情は、昏い。

谷に架かる吊り橋の、
こちら側にも向こう側にも、
人を喰らう屍たちの群れが迫り来ている。

そのうちのひとりが、無造作に橋へ足を踏み出すと、
朽ちかけたワイヤーが軋み、吊り橋は大きく撓(たわ)んだ。

もう何処にも逃げ場は無いから。
ふたりで奴等の手の届かない場所へ行こうと決めた。
ここから飛び降りれば、その場所へ行ける。
この高さから飛び降りたなら、きっと、
奴等の仲間入りをすることもないだろう。

女は橋から身を乗り出した格好で、
男をもう一度見上げ、その腕を優しく掴んだ。
男は少し微笑って、どん、と、女の背中を押した。
均衡を失って、女は頭から谷底へ向かって落下を始める。
その瞬間、女は、片手で男の腕を掴んだまま、
もう一方の腕を男の首に絡め、頭をぐいと引き寄せて。

ふたりは深い谷底、奈落の底へ、
だれにも手の届かない場所へ旅立った。


                 退廃的な100のお題:鳥篭/お題配布場所



人気blogランキング











私は、自分のPCに突き落とされましたよ……orz(謎)
[PR]
by zbeat | 2006-04-10 01:01 | リビングデッド、もしくはゾンビ
<< 五感、六感、セブンセンシズ 第一感 死霊使いという名の剣(つるぎ) 後 >>