幾重にも重なる細い傷
いつの間にか。
こんな世界にも、こんな生活にも慣れてしまった。

さ迷い歩くゾンビたちをかいくぐり、
仲間たちとショッピング・モールから奪ってきた食糧を
トレーラーに積み込んで、秘密のアジトに立て篭もる。
食糧が尽きたらまた出かけ、トレーラーいっぱいに
食糧を積み込んで、戻ってくる。
その繰り返し。

アジトには、やはり店から持ってきた家具や電化製品、
オーディオ、ゲームが並び、各々ワードローブもあって、
ちょっとしたお城。
ささやかな楽園。

けれど、この生活。
いったいいつまで保つのだろう。

今はまだ、発電所も機能している。
冷蔵庫も電子レンジも、何の問題もなく、普通に使える。
TVもラジオも、もう、何も放送はしていないけれど。
そして、今はまだ、保存食ばかりとはいえ、
奪ってくる食糧もふんだんにある。
ゾンビたちをやりすごしながら、
トレーラーに給油もできる。

でも。破綻するのは、それは、時間の問題だ。
やがて(そう遠くもない将来)電気は落ちるだろうし、
食糧もガソリンも、尽きる日が来るはずだ。

そうなったら、どうすればいいのだろう。

日増しに大きくなってゆく不安に、
心が重くなるような気がする。
様々な想いが、爪跡のように、心に小さく傷を残す。

もしも心に形があるなら、
もしも心を目に見ることができるなら、
私の心には、いくつもいくつもいくつもいくつも、
細く、こまかく、傷が連なり、重なっているに違いない。

……なんて、考えてみるけれど。
本当はそんな傷がついているはずもないことを、
なによりも、私自身が、いちばんよく知っている。
それは、たくさんの傷がついていてほしい、という、
私の、願望。

そう、傷なんてあるわけがない。
なぜって、私は、”ゾンビ以前”の世界より、
”ゾンビ以後”の、今の世界を、愛しているから。

私の心に傷があるとしたら、その傷は、
変容したこの世界のほうこそを愛してしまった
自分に気づいたが故の、
私の、私自身への恐怖。

……本当は、解っている。
それさえも、多分、私の願望。

私の心に、どうか、たくさんたくさん、
傷がついていますように。


                 退廃的な100のお題:鳥篭/お題配布場所



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by zbeat | 2006-03-17 23:50 | リビングデッド、もしくはゾンビ
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