傾いた塔の上で
男は、傾いた塔の上から、
眼下に広がる世界を見下ろしていた。

もはや世界は、否、人類の存在は、風前の灯だった。
ある日突然甦りはじめた死者たちは、瞬く間に増え続け、
今は、生きた人間の姿を見かけることもない。
何処かで生き延びてはいるのだろうが
(もっともそれは、彼の希望的推測を多分に含んでいる)、
少なくとも、もう長いこと、鏡に映る自分の姿以外に、
男は人間を目にしていなかった。

私は地球最後の男になってしまったのだろうか。

そんな思いが頭を掠める。

だが、それでも、世界は在り続けるのだ。
たとえ、自分もまた息絶え、生ける屍として甦ったとしても。
地上からすべての人間が消え去ったとしても。

それでも地球は回り続け、世界は存在し続ける。
人間など、人類など、これまでも結局は、
吹けば飛ぶような存在でしかなかったのだから。

傾いた塔の上で、絶望を新たにした男は、
生ける屍たちの彷徨う地上へと、身を投げた。


                 退廃的な100のお題:鳥篭/お題配布場所



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by zbeat | 2006-03-12 22:04 | リビングデッド、もしくはゾンビ
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