塞がらない傷
ごす、と、鈍く、くぐもった音を立てて、膝の骨が外れる。
だが、彼は意に介さない。
不如意な腕を伸ばしてどうにかバランスを取りながら、
腐りゆく筋と皮だけで繋がったその脚を引き摺って、
よろめきつつも、彼は歩み続ける。

すぐに、もとより朽ちかけていた皮膚が、筋が千切れ、
剥がれ落ち、ぼすり、と音がしたかと思うと、
彼は横様に倒れ伏した。
焦点の合わない瞳が、不思議そうに
(そんな感情があれば、だが)音のした方向を見遣る。
色褪せた焦げ茶色のローファーを履いたままの、
腐敗した脚がひとつ、転がっている。
しかし、彼に、その意味は解らない。
己の体を運んでいたそのモノが、突然長さを変えてしまい、
どういうわけか、立ち上がろうにも立ち上がることができない。

もう一度、先刻音のした方向を見て、
そこに落ちている物体を眺める。
それがかつては己の膝の下に繋がっていたことを、
理解したのか、していないのか。
下顎を数度震わせると、彼は再び立ち上がろうと試みる。

無駄と悟ったか、諦めたのか、そしてやがて彼は、
腐りかけた2本の腕と、残された1本半の脚で、
ずず、ずず、と、這いずりはじめる。
アスファルトで、皮膚が、肉が、少しずつ削れてゆく。
無論、彼にそれを気に病む様子は無い。
気に病む理由も、必要も無い。

疵(きず)が塞がり、癒えることは永久に無い。
彼の身体は、もう、ずっとずっと昔に、死んだままなのだから。


                 退廃的な100のお題:鳥篭/お題配布場所



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by zbeat | 2006-03-06 22:53 | リビングデッド、もしくはゾンビ
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