か細い吐息が微かに響く
「おにいちゃん……」
消え入りそうな声で、少女は尋ねた。
「わたし、どうなるの?」

「分からない」
消沈した声で、少年は応えた。

少年の年のころは、12、3。
ひとつか、ふたつほど幼い少女を背負って、
真っ暗な山道を歩いていた。
骨まで噛み砕かれた、少女の左足が、
少年の歩調に合わせて、ぶらぶらと揺れる。
少女の足は、どす黒い赤紫色に腫れ上がり、
力の衰えたその身体は、ずっしりと重かった。

「ねえ、わたし、どうなるの?」
「……分からない」

本当は、少年には分かっていた。
けれど、どうしても、告げる勇気は無かった。
「そのとき」が来たら、どうすれば良いのか、
否、自分がどうするのか、見当もつかなかった。

幼い子供ふたりで、どうしてあの状況から
逃れることができたのか、と、
思い起こして、少年は身震いする。
神の奇跡か、はたまた神の悪戯か。
なんにせよ、この後少女の身に起こるはずのことを思うと
(そして、そのうちに、自分の身にも起こるのだろう)、
それを「幸運」と呼ぶ気にはなれない。

「ねぇ……。わたし、どうなるの?」
不安げで消え入りそうな、囁くような声。
「分からないよ」
息を切らしながら応える声も、また、低い。

もう幾度となく繰り返されたやりとり。
大丈夫だ、と言ってやれるだけの勇気も、
もはや、少年は持ち合わせていなかった。
そんな気休めは、少女だって、きっと信じない。

だが少なくとも、少女は未だ気づいていないのだ。
これから己の身に起こることに。
自分がこれからどうなるのか、
どんなモノになろうとしているのか、
未だ分かってはいない。

ただただ不安で、心細くて、少女は少年に尋ねる。
ねえ、わたし、どうなるの、と。
少女が真実を悟らないよう、
自分の心の内を悟られないよう、
そればかりを願いながら、
分からない、と応えて、
少年は真っ暗な山道を進む。

この道行きに、救いなどありえない。
子供の足で、しかも、少女とはいえ、人ひとりを背負って、
逃げられるはずもない。
そもそも、安全な場所なんて、もう、何処にも無いのだ。

「ねえ、おにいちゃん……。わたし、これからどうなるの?」

「……分からないんだ……」

少女のか細い吐息が、少年の耳をくすぐる。
「ねぇ……。わたし、どうなるの……?」
だんだんと弱く、細くなる少女の吐息を首筋に感じながら、
少年は、歩き続ける。

この道行きに、救いなどありえないのに。


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by zbeat | 2006-02-18 19:19 | リビングデッド、もしくはゾンビ
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